オープンセサミ

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日本人の優れた知恵「梅干しと日本刀」樋口清之

「梅干しと日本刀 -日本人の知恵と独創の歴史」樋口清之


この本は日本人の文化がいかに諸外国に類を見ない優れたものであるかを検証した本である。
日本人の自虐史観を憂いた著者は、日本と欧米との自然対応の姿勢や事実認識の方法、そしてその表現の様式の相違点があることを認識したうえで、日本人とその文化の価値観を見直すことに努めた1冊である。

本書はこのように日本人の優れた知恵について書かれているため、日本人の歴史的な行動や知恵のすべてが素晴らしいと主張している本であると思われるかもしれない。
しかし、その一言でこの本を済ませてはいけないのである。
著者は最後にこう記述している。

ー何が何でも日本的な従来の生活を不合理・非科学的で、前近代的だとするような誤解が、実は今日きわめて多い。そこでせめて、正しく、日本人にも生きてくるのにはこれだけの工夫があったのであり、その中には、今日捨て去ってはならないものがあることを、強調したいと思ったのである。
一方、日本人の行動や考え方の中に見られる欠点もけっして少なくない。その点は、今日むしろそれを指摘した書物のほうが多いから、それらについて見られたいと思う。私も十分欠点を認めたうえで、なお、そのすぐれた特色も忘れてはならないと思っている一人である。-

まとめると筆者はこう言いたいのであると思う。
日本人にも欠点は結構あるが、最近は日本人を劣っているとする意見が数多くあるから、日本人の発展の工夫の中に現代でも忘れてはいけない大切なものがあることをこの本では強調している。


どの民族の歴史にも素晴らしい点や欠点は数多くある。
そのすべてを一冊で記述することは物理的にも、それらが含む専門性的にも不可能である。
そのため、本に記述する内容を選択しなければならない。
この本は日本人の生きてきた生活の中の知恵や生活の合理性を選択して記述されている、ただそれだけの話なのである。

タイトルになっているように梅干しや日本刀など、日本人が生きていくうえで合理的に考案されたものは数多くある。
ここからは自分が深く感嘆したものを抜粋して紹介していく。
この本に興味が出た方は是非自身の手にとってみてもらいたい。

五節句の飲食物はすべて薬品だった

この項では日本人の健康管理について書かれている。
 
一月七日には七草を食べる。
ナズナハコベラなどの解毒性の強い薬草の粥を食べる。
これは正月の食べ過ぎや飲みすぎなどによる胃腸の酷使を調整し、稲作開始に備える目的がある。
 
三月三日も桃の節句は桃の種の中にある胚乳を食べる節句であり、杏仁湯を飲む。
これには血圧低下と強心健胃作用がある。
 
五月五日は菖蒲の節句である。
本来は菖蒲の根を干して煎じたものを飲む節句である。
これにも強壮解毒作用がある。
 
七月七日はほおずきの節句である。ほおずきの根は堕胎方法に用いられていた。
七月七日前後に妊娠をしていると、秋の取入れに苦しい思いをするため、母体保護のために七月七日にほおずきの根を服用して早いうちに流産させておく。
流産と聞くと現在の人は倫理的にいけないことであるという認識になるだろうが、収穫が生きることに直結する時代のことであるため、今の基準で倫理を語ることは出来ない。
 
九月九日は鉄分の多い菊を煎じて飲む菊の節句である。
これには強壮、造血作用がある。
 
これらのように五節句は薬品を食品化し、労働スケジュールに合わせて、その時期に一番必要な薬物を摂取するという年中行事化することで健康体を維持するためのものであったのだ。
 
現代では三月三日に桃の花を活けたり、五月五日に菖蒲風呂に入ったりと行事が変容しているものの、当時の日本では五節句は生きていくために必須のものであった。
 
自分は五節句予防医学の一次予防であると感じた。
一次予防とは、生活習慣の改善や健康教育、予防接種などの病気に罹らないようにする処置や指導のことである。


現代でも一次予防は疾患を防ぐために必要なものであるが、まだ医学の発展が未熟であった時代において病に罹ることは死と≒であったに違いない。
そのため年中スジュールとしての五節句が浸透していったのであろう。
 

科学は素晴らしいものであるが…


このことに気が付いた時自分は感嘆した。
今も昔も実際に行う活動は違えど、生きていくための根本的な考え方は変わっていないのである。
当時の人が経験的に編み出していった風習は確かに生きていくために合理的なものであった。

考え方は変わっていない一方で、現在は水素水や炭水化物抜きダイエット、果ては飲尿ダイエットなど「科学的」と言われる健康法が数多く叫ばれている。
そのどれが本当に正しくて、どれが間違っているのかは一般の人々にはわからず、様々な
健康法に手を出す「健康マニア」と呼ばれる人まで出てきている。
その方法で健康になっているのかは多くの人にとっては不明なのである。

周りの人をみて直感的にわかる「経験」よりもその分野を深く勉強した人にしかわからない「科学」を信じるようになった現在の良くない面なのかもしれない。

最後に

この本を読んで自分は昔の日本にも誇るべき点が多々あり、現代で忘れてはならないものも含まれていると知ることが出来た。
皆さんにもこの本を読んで昔の日本の暮らしぶりを味わってもらいたい。